サイモン・シネックのTEDトークと質問学(1)

先日の記事で質問の役割を「発見」「問題解決」「コミュニケーション」「自己実現」の四種類に分類したら、次のことも役割に入れられるのではないかという指摘をいただいた。

  • 嘘を引き出す
  • 相手の矛盾を引き出す
  • 相手に行動を控えさせる

なるほど…。このうち三番目の「相手に行動を控えさせる」は「相手を動かす」の裏返しとして「コミュニケーション」に含められそうだ。しかし最初の二つについては「議論」というカテゴリーを設けた方がいいと思った。

たしかに弁護士が著者となった「質問力」の本などでも、質問の役割として「議論に役立つ」点が強調されている。またわたし自身を振り返ってみても、「どうしたら建設的な議論を成立させられるか」という問いが、この「質問学」という発想の動機となっている。

【質問の五つの役割】

  1. 質問×日常=発見
  2. 質問×解法=問題解決
  3. 質問×論理=議論
  4. 質問×相手=コミュニケーション
  5. 質問×自分=自己実現
◎サイモン・シネックのTEDトーク冒頭にみる質問の役割

質問が効果的に使われている例として、サイモン・シネック(米国のコンサルタント)のTEDトーク「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」を見てみよう。


彼はこのプレゼンテーションを聴衆への質問で開始する。

予想通りに物事が進まないときに、それをどう説明しますか? あるいは、すべての常識を覆すようなことを誰かが成し遂げたときに、それをどう説明しますか? 

たとえば、アップル社はなぜあれほど革新的なのでしょうか? 毎年、毎年、競合企業のどこよりも、革新的であり続けています。ただのコンピュータ企業です。他と同じなのです。同じような人材を集め、同じような代理店、同じようなコンサルタント、同じようなメディアを使っています。それなのに、なぜ他社とは違うものがあるように思えるのでしょう?

マーティン・ルーサー・キング公民権運動のリーダーとなったのはなぜでしょうか? 彼だけが、公民権運動が起こる以前のアメリカで苦しんでいたのではありません。彼だけが、当時、演説が上手かったのではありません。なぜ彼だったのでしょう?

また、ライト兄弟が有人動力飛行に成功したのはなぜでしょうか? もっと優秀で、資金も豊富なチームが有人動力飛行を実現できず、ライト兄弟に負けてしまいました。何か別の要因が働いているのに違いありません。

日本語訳:『世界を魅了するプレゼンの極意』(アカッシュ・カリア著/月沢李歌子訳/SB Creative)より

ここでの質問の役割はつぎの二点で説明できる。(つまり、質問の役割はひとつとはかぎらない)

  • 発見…聞き手の知識のスキマを示して、新しい世界をひらく。
  • コミュニケーション…聞き手の好奇心を刺激して、心をつかむ。

質問を現実に役立つ「道具」だと考えれば、この冒頭は使用法のお手本でもある。さらに、このプレゼンの内容自体がWhy-How-Whatという、質問の方法の指針となっている。それについては、あらためて考察したい。