武田邦彦先生の「正しい」トークショー・その2

僕が質問した論点は(結果的に)4つありました。まずはその確認。

【論点1】
日本では喫煙者数が減っているのに、肺がん死亡者が上昇している。もし喫煙者の方ががんになりやすいとしたら、こんなグラフにはならないはず。

これは何十年も以前から繰り返し登場する「パラドックス」。「喫煙者は減っているのに、肺がん死は増えている」というグラフは正しい。でも、そこからいきなり「喫煙と肺がんは無関係」という結論を引き出すのは飛躍しすぎ。

ポイントは2つ。1つは「年齢調整の必要性」。もう1つは「タイムラグ」。
簡単にいえば「肺がんの原因はタバコだけじゃない」。とくに「年齢」は、がんの発生に大きく関わってきます。
たとえば「20歳の喫煙者」と「75歳の非喫煙者」では後者の方がずっとがんになりやすい。そこを考慮に入れないと「喫煙と肺がんの関係」が見えてこないのは基本中の基本です。

高齢化の影響を調整して、また喫煙習慣とがんの発生のタイムラグを考慮に入れると、ごらんのように「喫煙と肺がん」がきれいな対応を示すようになります。当然、タバコの消費が減少すれば、30年ほどのタイムラグを経て肺がん発生数も減少します。

【論点2】
厚労省は、タバコを吸っている人と吸わない人を比べると、喫煙者は1.6倍がんになりやすいと発表しています」
「比率は1.6ですから」

詳細は省きますが、タケダ先生は論述のキーになる数値の用い方がダイタンです。というよりメチャクチャです。「1.6倍」というのは「全てのがん」で考えたときに喫煙者が非喫煙者と比べてリスクがそれだけ大きくなるという数字。

ところがタケダ先生は「肺がん」の話をしているときに、なぜかこの「1.6倍」を無造作に用いています。ちなみに厚労省の発表によれば「肺がん」なら「4.5倍」になります。これだけでざっと3倍、話が違ってきますね。

【論点3】
男性の人口は約6000万人ですから、喫煙者率70%ですと、喫煙者数は4200万人になります。

これ、どこがおかしいかわかりますか。大人でも見逃してしまいがちですが、小中学生でも気づけば簡単です。

「喫煙者率70%」というのは厚労省JTの統計を見てもわかりますが「20歳以上」を対象にした調査です。最新たばこ情報|統計情報|成人喫煙率(JT全国喫煙者率調査)
タケダ先生の記述にある70%は、たしかに正しい数字です。だけど「男性の人口6000万人」にそのまま掛けてはダメです。仮に20歳以上の成人が4500万人だとすると、喫煙者数は4500万×0.7=3150万人。これだけで1000万人以上の差がでます。

ちなみに、上の写真右ページの12行目に「わずか0.06%」という数字がでてきます。これも元になる数字「1.6倍」「4200万人」が両方間違っているので、合わせて10倍以上は結果がちがってくるはずです。「0.06%」ではなくて「1%」程度だと考えておくのが妥当でしょう。

【論点4】
日本人男性のうち1000人に1人が肺がんになる。残りの999人は「タバコを吸っていたにもかかわらず、肺がんにもならず健康だった、ということ」

一応、資料を示しておくと、日本人男性のおよそ1000人に1人弱は肺がんで亡くなります。厚労省・人口動態統計

簡単にいえば、日本人男性は毎年100人に1人が亡くなっている(死亡率1029/10万人)。そのうち12〜13人に1人が肺がんで亡くなっています。これは日本人男性のうち1000人に0.8人が毎年肺がんで亡くなっているということ(死亡率81/10万人)。

肺がんになった人の8割が亡くなるとすると、「日本人男性のうち1000人に1人が肺がんになる」という数字自体は大体正しい。ところがタケダ先生の場合、その数字の読み方がムチャクチャになります。

日本人男性の1000人に1人が肺がんになるとして、残りの999人は「肺がんにならなかった人」。つまり喫煙者・非喫煙者、健康な人・病気の人、肺がん以外のがんになった人など、すべて含みます。ところがタケダ先生の解釈ではなぜか「タバコを吸っていたにもかかわらず、健康だった人」に。

では、以上について質問したときのタケダ先生の回答はどうだったんでしょう。

↓(その3)
武田邦彦先生の「正しい」トークショー・その3