武田先生がホワイトボードに書いたグラフの意味は?

BSスカパーBAZOOKA討論(#127, 128)で武田邦彦さんがホワイトボードに書いたグラフについてYoutubeで視聴者の方から質問をもらいました。検証してみたところ、これは「一見もっともらしいけれど、まったくつじつまの合わないグラフ」であることが判明しました(笑)

武田氏はBAZOOKA#127と#128でこのグラフを示しています(収録は同じ日)。2回とも横軸が「年令」だと書いていますが、縦軸については言及していません。素直に解釈すると縦軸は「死亡率(or 死亡数)」になるはずですが、その後どう解釈してもつじつまが合わなくなります。


(32分00秒〜32分40秒)


(43分50秒〜)

【理由1】
通常のグラフでは、全がんの死亡率は必ず個別のがん(胃がん・肺がん…)より上になります。個別のがんの合計が全がんですから、当たり前ですね。
また男性の場合、どの年代でも肺がん死亡率が胃がん死亡率を上回っています。国立がん研究センターのサイトで作成したグラフを確認してみてください。


【理由2】
では「肺がん」を男性、「胃がん乳がん」を女性と解釈することは可能でしょうか。
たとえば、2011年のデータを確認してみます。平均寿命にまだまだとどかない60-64歳の時点で…

  • 男性の肺がん死亡数:4,906人(死亡率は10万人あたり65.5人)
  • 女性の乳がん死亡数:2,000人(死亡率は10万人あたり37.1人)
  • 女性の胃がん死亡数:1,219人(死亡率は10万人あたり22.6人)

男性の肺がん死亡率の方が女性の乳がん胃がんよりずっと多いので、これもつじつまが合いません。

人口動態統計によるがん死亡データ
(リンク先「2 どの部位のがん死亡が多いか〜年齢による変化」からexcelファイルcancer_mortality(1958-2013)をダウンロード)

【理由3】
BAZOOKA#127の32分30秒で武田氏は「タバコを吸うと、ここでガンになる。吸わなかったら、ここでガンになる」と言って、タバコを吸った方が長生きをするような言い方をしています。
しかしこれも意味不明です。縦軸をある特定の死亡率としたときに、肺がんと全がんがその死亡率に達する年齢を比べたところで、「タバコを吸う、吸わない」とは無関係です。

【理由4】
武田氏が書いた「胃がん乳がん」はBAZOOKA#127(32分15秒)でも#128回「全がん」の曲線の手前で途切れています。しかしある年齢を区切りに胃がん乳がんの発生がなくなることはありません。

以上、武田氏がホワイトボードに書いたグラフは、つじつまの合わないグラフだと判断せざるを得ません。なんとなくそれらしいグラフを示して、一見もっともらしい説明をしただけではないでしょうか。
肺がんが高齢になってから発生する傾向があるとしても、それ自体は喫煙者と非喫煙者の比較とは無関係です。そして、喫煙者と非喫煙者を比較すれば、どの年齢においても喫煙者の方が肺がんその他の死亡率が高くなっているのが世界共通の学問的知見です。