【種明かし】タバコを吸って肺がんになるのは1000人に1人?

「タバコを吸って肺がんになるのは1000人に1人」という珍説(!)を中部大学の武田邦彦教授が唱えている。これについてYOUTUBEの対話で収穫があったのでメモしておきたい。概要は以下の2点である。

(1)2つの文脈(1年と生涯)を区別することが大切
(2)武田氏の説明は毎回バラバラ

(1)2つの文脈(1年と生涯)を区別することが大切

まず武田氏のもともとの主張を確認しておこう。

 たとえば、禁煙運動が盛んになった80年代から90年代の初めは、喫煙率が70%〜60%ぐらいだ。この時の人口は約1億2000万人で、そのうち男性は半数の6000万人。その70%〜60%ということは未成年を除いて3000万人弱が喫煙者だ。
 3000万人のタバコを吸っている男性に対して、肺がんになる人は1年間に約3万人。つまり、1000人に1人の割合でその年に肺がんになっていたということになる。

『早死にしたくなければ、タバコはやめないほうがいい』(武田邦彦著/竹書房新書)←この本のデタラメ具合については「ニセ科学」本はデータをどう扱っているか?を参照してください

つまり

  • 男性喫煙者が3000万人
  • 1年間に肺がんになる人が3万人

このことから「タバコを吸って肺がんになるのは1000人に1人」と主張しているわけだ。

大雑把な話としてはこれは必ずしも間違いではない。ただし、これはあくまで1年間の数字であると理解しておくことが重要だ。次の2つの文脈の違いを確認しておこう。

【文脈A=1年】 

  • 日本人男性のうち、1年間にはおよそ100人に1人が亡くなる
  • そのうち3人に1人はがんで亡くなり、さらにそのうち4人に1人が肺がんで亡くなる 
  • つまり日本人男性のうち、1年間にはおよそ1000人に1人が肺がんで亡くなる 

【文脈B=生涯】 

  • 日本人男性のうち3人に1人はがんで亡くなり、さらにそのうち4人に1人が肺がんで亡くなる 
  • つまり日本人男性のうち、生涯ではおよそ十数人に1人が肺がんで亡くなる 
  • 喫煙者の肺がんリスクが非喫煙者より高いことを考慮すれば、喫煙者は生涯で数人に1人が肺がんで亡くなる 

最新の人口動態統計データ(平成26年)を見ると、日本人男性について死亡者数はつぎのようになっている

・全死因:660,335人
・悪性新生物(がん):218,397人
・気管, 気管支および肺の悪性新生物(がん):52,505人

また、平成26年の日本人男性の人口は6180万1000人。総務省統計局 人口推計
喫煙者の肺がん死亡率は「1日20本で、6人に1人。1日40本で、3人に1人」(平成12年の世界禁煙デー・シンポジウムにおける発表

ところが武田氏は意図的に文脈A・Bをゴッチャにして用いている。


BAZOOKA111回の25分25秒〜26分を見ると、 お笑いタレントの小籔千豊さんはおそらく「文脈B」(生涯=10人に1人)をイメージしているが、武田氏は「文脈A」(1年=1000人に1人)の話をして驚かせていることがわかる。

(2)武田氏の説明は毎回バラバラ

【武田氏の主張1 BAZOOKA 111回】

  • 主張:3000万人の男性が吸っているときに、肺がんになった人が3万人。だから1000人に1人。
  • 時代:禁煙運動が盛んになった1980年代から90年代のはじめ

もともとの主張。著書『早死にしたくなければ…』でも同じ計算が何度も登場する。著書によれば、これは1980年代から90年代初めのデータ。

【武田氏の主張2 BAZOOKA 122回】

  • 主張:「タバコを吸って肺がんになった人」から「タバコを吸わなくて肺がんになった人」を引く(39分55秒)。
  • 時代:1950年から60年のデータは使っていない。日本人はほとんどタバコ吸っていなかったから。(45分15秒)

磯村先生が文脈AとBの解説を始めたとたん、武田氏はそれを否定して別の主張を展開。

【武田氏の主張3 BAZOOKA 127回】

  • 主張:平均寿命から長く吸う人をカウントから除く。男性では66歳(平均寿命)までに肺がんで死ぬ人が2,800人に1人
  • 時代:1965年

「平均寿命」はここで初めて登場。あれこれ説明しているが、結局は「半世紀前(1965年)には、66歳までに肺がんで死ぬ人は少なかった」と言ってるだけ。現在、日本人男性の十数人に1人が肺がんで亡くなっている事実からは、論点が大きく逸れている。

まとめ

「タバコを吸って肺がんになる人は1000人に1人?」について

(1)2つの文脈(1年と生涯)を区別することが大切。武田氏のもともとの主張は、この1年と生涯を混同させて、「喫煙による肺がん死は少ない」とミスリードするもの。
(2)武田氏の説明は毎回バラバラ。番組視聴者が(1)を理解できないように、毎回違った説明をした。

中部大学の学生さんには、ぜひこの「武田邦彦先生」を題材にメディアリテラシーを学んでもらいたいものである。