糸井重里さんの質問術

話を引き出すのが上手な人は質問が上手な人だ。という事実にあらためて気付かされました。その「質問が上手な人」は、糸井重里さんです。

バルミューダのパンが焼けるまで。
http://www.1101.com/terao_gen/index.html


画像出典:ほぼ日刊イトイ新聞

とっても美味しくパンが焼けるトースターを開発した「バルミューダ」という会社があります。その社長である寺田玄さんと糸井重里さんの対談を読んで、わたしは感嘆しました。「糸井重里」という名前は昔から知っていて、ご本人を真近で見たこともあるけれど、「質問して話を引き出す人」という観点で注目したことはなかったからです。

対談は10回に分けて「ほぼ日」のページに載っています。その1回目を読むだけで、彼の達人技を見ることができます。

2016-01-07 (1)本気で望んで、ならないことがあるんだ。
http://www.1101.com/terao_gen/index.html

対談が始まると、バルミューダの寺尾社長は「人びとは『もの』を買うのではなく体験を買っている」「その体験は五感のインプットによって作り上げられる」「五感すべてを使う体験こそ『食べること』」だという考えを「立て板に水」のように披露します。彼はおそらく、「今日はこんは話をしよう」と準備してきたのでしょう。

糸井さんはその話をまず受けとめたうえで、話が「きれいにつながりすぎている」ことを指摘します。一方の寺田社長も「そうです、はい(笑)」と素直に認め、「なぜならば・・・・あとから作った話だから!」と告白することで、その場全体があたたかな笑いで包まれます。

そのあと糸井さんは寺尾社長に質問します。この部分を引用してみます。

糸井 寺尾さん、ゲームはなさいますか?

寺尾 はい、します。

糸井 ロールプレイングゲームなどで
   上から画面を「俯瞰」で見ると
   どこに何があるか、よくわかります。
   しかし、自分の視点の画面では、
   目の前にあるのは
   扉や廊下、壁ばかりですよね。

寺尾 はい、はい。

糸井 自分の視点で仕事をしているときには、
   いま寺尾さんがおっしゃったようには
   わからないわけです。

寺尾 そうですよね。

糸井 たとえば‥‥いまの「立て板に水」のなかで、
   「やんなきゃよかったかな」
   と思ったことはありませんでしたか。

寺尾 トースターをですか?

糸井 いえ、この仕事全体を。

寺尾 何度もあります。

糸井 話しましょう(笑)。

寺尾 はい、話させていただきます(笑)。

一同 (笑)


どうでしょう。糸井さんは寺尾社長に「ゲームはなさいますか?」と質問します。そうして画面を「俯瞰」で眺める視点と、当事者としての「自分の視点」が違うことを共有したあとに、こんどは「『やんなきゃよかったかな』と思ったこと」について尋ねます。

この2つの質問によって、話は一気に深まり、寺尾さん自身もおそらく予想していなかった展開をみせます。「会社がつぶれそうになった話」「もともとはミュージシャンをやっていた話」「両親の話」「スペイン放浪の話」などなど。

糸井さんの対談を読むと、大きく2つのコミュニケーション技術が使われているように思いました。

◎2つのコミュニケーション技術
(1)相手の話を理解し、共有すること。
(2)質問によって掘り下げ、展開すること。

(1)「理解・共有」と(2)「質問による掘り下げと展開」…この観点からあらためて考察すると、糸井さんの対話はひとつひとつの言葉がきちんと機能し連携していることがわかります。

10回の対談記事のうち、上で紹介した1回目以外にも、糸井さんの質問術を見ることができます。たとえば以下のような質問です。ご興味ある方はリンク先の記事を読んで、質問の前後で話がどう変化し、深まり、新しい展開を見せているか確認してみてください。

第2回
「・・・・ちょっと不思議に思うんですけれども」と、話を切り替えてから「寺尾さんは、なぜそういうスケールでものを考えるようになったんですか?」と質問。「もしかして、親御さんがそういうタイプだったんですか?」と話を掘り下げていく。
http://www.1101.com/terao_gen/2016-01-08.html


第3回
19歳、20歳ごろの「悪い循環」の話を受けとめて、「その自分に、もしタイムマシンで会う機会があったら?」と尋ねる。「寺尾さんを『変な人』にさせなかったのはなんですか?」と、さらに質問することで、寺尾社長が得た「教訓」を引き出している。
http://www.1101.com/terao_gen/2016-01-12.html


第7回
技術者でもない寺田社長が今までにない扇風機を開発したエピソードについて、「寺尾さんが扇風機を発案された、基礎体力というか、知識はいったいなんですか」と、本質に迫る質問を投げかける。そしてもともとの発想と開発にいたるプロセスを引き出している。
http://www.1101.com/terao_gen/2016-01-16.html


糸井重里さんのみごとな質問術…いきなり修得することは難しくても、(1)「理解・共有」(2)「質問による掘り下げ・展開」を自分なりに意識するだけで、対話の質がグンと向上するかもしれませんね。