BAZOOKA 武田邦彦討論・仕切り直し(後半戦 2015年6月8日)

6月1日(月)の前半戦(生放送)の後、10分程度の休憩を挟んで後半戦を収録しました。1時間半ほど収録したものを1時間に編集してありますが、概ね公平に編集されていると思います。

各トピックについて、簡単にコメントしておきます。

(1)受動喫煙は能動喫煙より有害!?

これは当然ながら、能動喫煙(自分でタバコを吸う)方が、受動喫煙副流煙を吸う)よりも健康被害が大きくなります。たとえば肺がんのリスクでいえば、能動喫煙なら男性4.5倍、女性4.2倍。一方の受動喫煙1.2〜1.3倍というデータがひとつの目安となります。

副流煙は主流煙よりもずっと多量の有害物質を含んでいるため「受動喫煙のほうが能動喫煙よりも害が大きい」との誤解があるが,副流煙は室内に広がって薄まるため,非喫煙者受動喫煙によって吸い込む有害物質の総量は能動喫煙よりもはるかに少ない.(日本禁煙学会編『禁煙学 改訂3版』p79)

(2)タバコは身体にいいから、依存症になっても構わない!?

「タバコは身体にいい」はもちろん間違いです。また依存症については、それぞれの学問分野(アルコールニコチン…)で診断基準が定められています。武田氏の「なんでも依存」的な話はこれを無視しています。


(3)武田本のデータについて

44:45〜では武田本のデータの間違いに言及しました。#122(4月27日)で武田氏は「データは私の本に載っている」という趣旨の発言をしましたが、改めて検証したところ、とても学者が書いたとは思えない杜撰な内容でした。

武田氏の著書『早死にしたくなければ、タバコはやめないほうがいい』(竹書房新書)が手元にあれば、謎解きのつもりで元データと照らし合わせてみてください。(5)だけでも確認すれば、そのデタラメさに驚くはずです。

(1)世界の喫煙人口率トップ10(p45) 出典は『WHO:タバコアトラス2002』。武田氏は「ややアジア系の国が多い」と主張しているが、元データをみると、4位に入るべきロシアが抜けている。  

(2)肺がん死亡率トップ10(p46) 出典:世界地図『肺がん死亡率トップ10』。これは正式なデータではなく、ネット地図ショップのもの。データはすべて間違い(男女が逆になっている)。 武田氏はそのまま著書に引用しているので、ここだけ女性のデータになっている。

(3)表1-2 民族と喫煙率と肺がんで死亡した人の数 出典不明(「武田研究室調べ」)。肺がん死亡者数は「人口10万人に対する人数」と書いてあるが、すべて公的な数字より1桁多い。

(4)図1-2 BMIと死亡リスクとの関連(女性)(p57) グラフの読み方自体が間違い。本来の解釈は「喫煙習慣や年齢にかかわらず(中略)死亡率が増加」であるが、武田氏は「タバコを吸っている方が危険度が小さい」と誤った解釈をしている。


国立がん研究センターのグラフ。喫煙の有無にかかわらず、太り過ぎ・痩せすぎは死亡率が上昇。

(5)「17歳以下で吸い始め…」(p58〜59) 。国立がん研究センター元データは「4万人を調査。4386人に何らかのがんが発生。そのうち681人には肺がんが発生」という真っ当な内容。それを武 田氏は「4386人を調査。681人に肺がんが発生」とわざわざ歪曲したうえで、「そんなことはありえない」「メチャクチャぶりにあきれ果てた」と主張している。

(6)「異常に高いグループ」(p75) 武田氏は平山論文の女性グループの肺がん発生率について、「14倍も高い」「こんな異常に高いグループをどこから探してきたのか」と批判している。しかし これは14年間調査した結果(0.14%)なので、年間の死亡率(0.01%)の14倍程度になるのはごく自然。

(7)図2-1 男女の肺がん死亡率の推移(p84) 「厚生労働省『人口動態調査』より作成」「30年間に渡る男女の『肺がんの粗死亡率』の推移」と説明されている。しかしこれは平山論文にある「年齢調整死亡率」のグラフそのまま。


有名な平山論文に載っているグラフ。年齢調整済みの肺がん死亡率推移。


武田本では平山論文のグラフが「粗死亡率」という間違った説明つきで、ほぼそのまま盗用されている。

タバコはあなたや周りの人の命にかかわる問題です。吸う吸わないの最終判断はあなたの自由です。でもヘンな情報は鵜呑みにしない方がいいと思います。ご質問などあれば、お気軽にコメントください。