【要約してみた】安倍晋三:「平和安全法制」私が丁寧にわかり易くご説明します

「『平和安全法制』私が丁寧にわかり易くご説明します」(第97代内閣総理大臣安倍晋三)を要約してみました(「月刊Will」8月号)。

いま世間を賑わせている安保法制に賛成の方も反対の方もいらっしゃると思います。ここでは賛否のジャッジ以前に安倍首相がどんなことを主張しているか知ることに意味があると考えました。なるべく偏りがないように要約しています。1つの小見出しごとに3つのパラグラフにまとめたので、30のパラグラフを読めば大体の内容が掴めます。ではどうぞ。


1.総理大臣としての責務

  • 衆議院で平和安全法制の趣旨説明が行われた5月26日、祖父・岸信介が奉納した写経の1枚が高野山から届いた。その最後には「世界平和を祈る」と書いてあった。その思いは私も同じである。
  • なぜ平和安全法制が必要なのかといえば、わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増しているからである。北朝鮮による弾道ミサイル核兵器開発、中国による尖閣諸島の領海侵犯、国防費の増大、東シナ海南シナ海における現状変更の試み、ISILをはじめとする国際テロ、サイバー攻撃のような国境を越える新しい脅威など。
  • このような状況下においては、一国のみで自国の安全を守ることはできない。国際社会と協力して平和と安定を確保することが不可欠であり、国際社会の安定が日本の平和と安定にも資する。その意味において、平和安全法制を今国会で成立させる必要がある。

2.反対派に問いたい

  • 私は総理就任以来、地球儀を俯瞰する視点で積極的な外交を展開してきた。「いかなる紛争も、武力や威嚇ではなく国際法に基づいて平和的に解決すべきである」という原則を主張し、多くの国々から賛同を得てきた。
  • 平和と安全を守るためには、域内外のパートナーとの協力関係を深めなければならない。私は安全保障の基軸となる日米同盟の強化に努めてきた。日米同盟の強化によって「抑止力」を高めることできる。それがひいては地域の平和と安定にもつながる。
  • 日米同盟の下では、日本が攻撃を受ければ米軍は日本のために尽力してくれる。ところが日本近海で任務にあたる米軍が攻撃を受けても日本はなにもできない。これでいいのだろうか。平和安全法制に反対する人たちにこう問いたい。「では、米国の艦船を守る必要はないとの考えなのでしょうか。あるいは、集団的自衛権という冠がついているからとにかく反対をしているのでしょうか」と。

3.PKO協力法改正の意義

  • 日本は20年以上にわたり、国政平和協力のため、カンボジアゴラン高原東ティモール、ハイチなどで国際平和協力業務などを実施し、内外から高い評価を得てきた。そこではのべ5万人を越える自衛隊員が努力してきた。現在は独立したばかりの南スーダンを応援している。
  • 従来の法案ではPKO活動を全うできない。たとえば、PKO活動を行う自衛隊の近くにNGOの人たちがいて、彼らが武装手段に襲われても、自衛隊は彼らを救うことができなかった。それを可能にする法改正によって、PKO活動の役割を果たす機能が向上し、国際貢献の幅が広がる。
  • 今回の平安全法制においては、国連平和維持活動(PKO)協力法を改正するとともに、国際平和支援法を整備することも盛り込んだ(米軍をはじめとする外国の軍隊を後方支援するための法改正)。しかし、これらは集団的自衛権とは関係のない活動である。いずれの活動においても武力の行使は行わない。

4.「法案撤回」の考えはない

  • 米国の上下両院の合同会議の演説において、私は「平和安全法制の成立をこの夏までに」という決意を述べた。それに対して野党が「国会審議もしていないのに米国で約束してくるとは何ごとだ。国会軽視だ」と批判した。
  • しかし平和安全法制の整備は、平成24年(2012年)の衆議院選挙以来、国政選挙で常に公約としてきた。テレビ討論でもくり返し訴えてきた。第3次安倍内閣組閣の記者会見や、今年2月の衆院本会議でも話してきた。つまり、これまで一貫して言ってきたことを米議会演説でも述べただけである。法整備の方針を閣議決定したうえで、選挙で公約に掲げて国民に約束した以上、選挙直後の通常国会で実現をはかることは当然である。
  • 提出した平和安全法制は与党において25回にわたって協議を重ねたベストなものなので、法案を撤回するという考えはない。ただし、議論のなかで建設的な提言があれば進んで耳を傾けたい。

5.砂川判決と軌を一にする

  • 平和安全法制に関しては「違憲ではないか」という批判も多い。しかしそうした批判は当たらない。なぜなら、今回の法整備にあたって憲法解釈の基本的な論理は全く変わっておらず、これは砂川事件に関する最高裁判決の考え方と軌を一にしているからである。
  • 憲法判断の最高の権威である最高裁自衛権について述べた唯一の判決である砂川判決(昭和34年、1959年)では次のように述べられている。
    • 「わが国が、自国の平和と判然を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権利の行使として当然のことといわなければならない」(ここで個別的自衛権集団的自衛権が区別されていないことは非常に重要)
    • 「わが国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度の政治性を有するものについては、一見極めて明白に違憲無効でない限り、内閣及び国会の判断に従う」。
  • すなわち、国の存立にかかわる安全保障政策について、方針、政策、どのように具体化していくかは、第一次的には内閣と国会の責任でとり進めていくものである。

6.「日本の危機」との認識を

  • 「(日本は)集団的自衛権を認めていない」という議論がある。昭和47年(1972年)の政府見解の結論部分では「集団的自衛権の行使は必要な自衛の措置に入らない、これを行使することはできない」としていたからである。しかし、これは集団的自衛権という法理を排除したわけではない。あくまで当時の安全保障環境に当てはめて、集団的自衛権は「必要な自衛の措置」に当たらないと判断したものである。
  • 現在、日本をとりまく安全保障環境は厳しさを増している。この状況を踏まえれば、今後、他国に対して発生する武力攻撃であっても、わが国の存立を脅かすことが現実に起こりうる(例えば、日本の近隣で日本のために活動する米軍艦艇が攻撃された場合)。
  • 私たち政治家は常に変化する安全保障環境のなかで、国民を守るための「必要な自衛の措置」について考えなければならない。内閣と国会は「必要な自衛の措置」について考え抜く責任を放棄してはならない。

7.「違憲」批判は当たらない

  • 今回の平和安全法制では、自衛の措置としての武力行使について世界に類を見ない非常に厳しい3要件を定めた。
    1. 「わが国に対する武力攻撃または「わが国と密接な関係になる他国に対する武力攻撃」が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根柢から覆される明白な危険があること。
    2. これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと。(外交的な手段はやり尽くしたうえで、国民の命を守るためにはこれ以外に手段がないという状況になっている、ということ)
    3. 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと。
  • このように、平和安全法制は
    • わが国を取り巻く完全保証環境が客観的に大きく変化している現実を踏まえ
    • 砂川判決の法理のもとに
    • 従来の憲法解釈との論理的整合性、そして法的安定性に十分留意し
    • 昭和四十七年見解などこれまでの政府見解における憲法第九条の解釈の基本的な論理・法理の枠内で
    • 国民の命と幸せな暮らしを守り抜くための合理的な当てはめの帰結を導いたものである。

   したがって、違憲であるという批判はまったく当たらない。

  • 安保条約改定のときにも、PKO協力法制定のときにも、「戦争に巻き込まれる」といった批判があった。そうした批判が的外れであったことは歴史が証明している。

8.無責任なレッテル貼り

  • 6月17日の党首討論民主党岡田代表は、平和安全法案は違憲だと決めつけた。しかし、米艦艇防護の例についてどう判断するかとの問いには最後まで答えなかった。民主党は「必要な自衛の措置」について考えることを放棄したのだろうか。
  • ここまでの説明を読めば、「アメリカのために戦争をする」とか「自国の存立にかかわりなく自衛隊が地球の裏側まで行く」といった指摘が的外れであることも理解してもらえるはずだ。「日本が武力を行使するのは日本国民を守るため」ということが日本とアメリカの共通認識である。
  • 「戦争法案」などという無責任なレッテル貼りも全くの誤りである。あくまで日本人の命と幸せな暮らしを守るために、あらゆる事態を想定し、切れ目のない備えを行うのが今回の平和安全法案。海外派兵が一般に許されないという原則も変わらず、自衛隊がかつての湾岸戦争イラク戦争での戦闘に参加するようなことは、これからも決してない。

9.リスクは認めている

  • 自衛隊発足以来、1800名以上の自衛隊員が殉職している。私は総理大臣として殉職隊員追悼式には必ず出席している。災害においても危険な任務が伴うことは、多くの国民に理解してもらいたい。
  • 「リスクを認めて議論をしろ」という主張があるが、リスクは認めている。PKO活動においては自衛隊が行える業務の範囲は広がるが、「リスクが8から10になるのか」というような議論が本質とはいえない。現在、南スーダンで活躍している自衛隊員も、南西諸島で活動している海上保安庁の職員も、リスクを覚悟して任務に当たっている。
  • 自衛隊員の安全確保は当然のこと。後方支援を行う場合にも、部隊の安全が確保できない場所で活動を行うことはなく、万が一危険が生じた場合には、現場の部隊長の判断で活動を休止・避難することとなっているなど、明確な仕組みを設けている。危険な任務遂行のリスクを可能な限り軽減することについては、今後も変わらない。

10.談話を出すにあたって

  • 戦後70年を迎えるにあたって、オーストラリア(昨年7月)、バンドン会議(今年4月)、米国の上下両院合同会議で演説を行い、私の考えや想いを述べた。オーストラリアのアボット首相は私の演説のあと、メディアの前でこう語ってくれた。「日本はフェアに扱われるべきだ。70年前の行動ではなく、今日の行動で評価されるべきだ」。
  • 戦争では遠い異国の地で、祖国の行く末を案じ、家族や恋人の幸せを願いながら、大勢の尊い命が犠牲となった。その犠牲のうえに今日の平和な日本がある。平和国家としての歩みはこれからも変わらない。戦争の惨禍を二度とくり返してはならないという想いをしっかり伝えたい。
  • 日本がこれまで歩んできた足跡をもう一度噛み締めながら、日本は積極的平和主義のもと、アジアや世界の平和と安定のために一層の貢献をしていくという姿を明確に示したい。また70年間、日本が多くの国に助けられてきたのも事実。そうした感謝の想いも混めて、安倍政権として談話を出す考えだ。

以上です。皆さんの議論の材料にしていただければ嬉しいです。(より正確には「月刊Will」8月号をご参照ください)