かみあわない質問(アリスとハンプティ・ダンプティ)

アリス
「なぜこんなところにひとりですわってるの?」

ハンプティ・ダンプティ
「なぜって、だれもいっしょにいないからじゃないか」

鏡の国のアリス』より

ここでアリスはWHY(なぜ)と尋ねて、ハンプティ・ダンプティもWHYの理由を答えている。だけど、ハンプティ・ダンプティの答えはアリスの質問への答えになっていない。そこが面白い。

(原文)
‘Why do you sit out here all alone?' said Alice, not wishing to begin an argument.
‘Why, because there’s nobody with me!’ cried Humpty Dumpty. ‘Did you think I didn’t know the answer to that? Ask another.’

"Through the Looking-Glass, and What Alice Found There"(1871)

アリスはハンプティ・ダンプティが塀から落ちてたいへんなことになってしまう有名な歌を知っているから、塀のうえの彼が落っこちるんじゃないかと心配して尋ねている。そこで想定される答えはおそらく次のようなものだ。

「いやなことがあって、ひとりきりになりたかったから」
「塀のうえから遠くを見てみたかったから」
「犬に追いかけられたから」

本来は塀にいることの動機を答えるべき状況なのだけれど、彼は「ひとりきり」=「まわりにだれもいない」という「言葉の意味」を答えている。

(単に言葉の意味を答えるナンセンスな例)

「なんで独身なんですか?」
「もちろん結婚してないからさ」

「なんで無職なんですか?」
「それは働いてないからだよ」

「なんで泣いてるの?」
「涙を流しているからに決まってるじゃないか。。。うぇ〜ん」

アリスとハンプティ・ダンプティほどではなくても、実際の会話で質問する側とされる側の意図がくいちがうことはよくある。そこには質問のセンスと、二人の信頼関係も必要になってくるはずだ。