クストリッツァ『アンダーグラウンド』再び

恵比寿ガーデンプレイスエミール・クストリッツァ監督『アンダーグラウンド』を観てきました。先週に続いて2回目。1996年の日本公開時と合わせると3回目の鑑賞です。

前回記事(1/31)映画『アンダーグラウンド』と心を揺さぶる「嘘」
http://d.hatena.ne.jp/yosikazuf/20160131/p1

なぜまた観にいったかというと、「圧倒的に凄い映画だった」「登場人物が生き生きしている」という実感があるものの、「なぜそうなのか?」という理由がうまく言語化できなかったからです。もちろん、その気になればいろんな評論が読めるはずですが、まずは自分で理由を考えてみようと思ったのでした。

そんなわけで、映画『アンダーグラウンド』にわたしが圧倒された「理由」をいくつかメモしておきます。(※ネタバレあり)

◎大胆な世界観

この映画には独自の世界観があります。
舞台はユーゴスラビアの首都ベオグラードナチスドイツが敗北して第二次大戦が終了しても、仲間を騙して地下の世界を保ち続けるという大胆な設定。また1990年代の場面でも、ヨーロッパ中を地下の道路が結んでいるという設定。
現実にはあり得ないファンタジーなのだけれど、その世界を生き生きとしたものとして構築する圧倒的に強い意志クストリッツァ監督にあり、それがこの映画を成り立たせているのだと思いました。

◎演劇的なのにリアリティがある

俳優の演技はとても演劇的です。にもかかわらず、そこに強いリアリティを感じるのはなぜなのかと思いました。
まず、主要登場人物(マルコ、クロ、ナタリア)のクローズアップの表情がとても豊かです。その一方で、「舞台」「映画撮影」のシーンでは役者たちの大根芝居が強調されます。
映画全体が大胆なファンタージーでありながらも、主要人物の豊かな表情を別の人物の下手な芝居と対比させることで、リアリティが迫る演出になっているのだと思いました。

◎音楽と動物

この映画ではジプシーブラスバンド系の音楽と、哺乳類・鳥・魚などの動物が象徴的に登場します。ブラスバンドは映画全体に躍動感を吹き込み、動物たちは生命の象徴として機能しているのだと思いました。ラストシーンの始まりをつげる、ドナウ川から島に上がっていく牛たちはとても印象的です。

シド・ヴィシャスの「マイ・ウェイ

1990年代にこの映画を観たとき、わたしはこの映画のパンフレットとサントラCDを買いました。パンフレットにはクストリッツァ監督のインタビューも載っていて、セックスピストルズシド・ヴィシャスが歌う「マイ・ウェイ」の話をしていたように記憶しています。

シド・ヴィシャスの「マイ・ウェイ」は『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』という疑似ドキュメンタリー映画の1シーンです。
シド・ヴィシャスがパンク版「マイ・ウェイ」を歌った後、観客に向けて発砲してコンサートを台無しにします。このシーンはもちろん演出ですが、シド・ヴィシャス自身は映画公開前の1979年に麻薬の過剰摂取で死亡しています(21歳)。

クストリッツァはこの「マイ・ウェイ」を取り上げて「破滅的なものの魅力」について話していたはずですが、詳細は忘れました。「破滅的なものの魅力」については、もう少し時間をかけて自分なりに消化していけるといいと思います。

日曜午後の回で映画館は満席近い入り。終わって外に出ると、少し薄暗くなっていました。