蓮實重彦さんの三島由紀夫賞会見

今年5月、フランス文学者で元東大総長の蓮實重彦さん(80歳)の三島由紀夫賞受賞会見がニュースになっていました。「記者の質問に答えない」「傲慢な会見」というような論調だったような記憶があります。



Youtubeに動画があったので20分程の会見を見て、笑ってしまいました。蓮實先生らしいなあと。

僕の推測では、蓮實さんは「作品に書かれたこと」だけに焦点を当てようとしている。作者(蓮實さん)の行動とか作者の意図とかは作品に無関係だとして、その類いの質問を徹底的に拒否しているのでしょう。

12分50秒で蓮實さんは「あの...この作品についてどなたか聞いてくださる方はおられないんでしょうか?」と逆に問いかけています。また、会見の最後、18分ごろから「ばふりばふり」という擬音語についての質問には丁寧に答えています。

賛否両論あるのは当然として、この会見はとても蓮實さんらしくて好きです。ご自身の中に一貫した基準がある。その表明が他人には真似できない個性となっている。そこが面白い。

四半世紀以上も前、蓮實先生の映画の授業を受けたときのことを思い出しました。「監督の意図」とかではなく、「その画面に何が映っているかをちゃんとみてください」という授業でした。ヒッチコックの映画だったので、僕は当てられたときに「ヒッチコック(の名前)」と答えました。ちょっとしたことですが、その体験は今も忘れられません。

映画なら、そこに映ったものをちゃんと見る。小説なら、そこに何が書かれているかをちゃんと読む。それは今も色あせない強烈なメッセージです。僕にとっては。

【Q】(作者の意図とかではなく)そこに何が書かれているか?

(追伸)
蓮實さんの場合は「文学のとらえ方」の問題です。一方、私たちの日常の議論においても、「その人が何を言っているのか」という具体的表現を軽んじて、勝手に意図を詮索した結果、コミュニケーションが失われてしまう例もあるように思います。


(参考記事)蓮實重彦さん、報道陣に「馬鹿な質問はやめていただけますか」 三島由紀夫賞を受賞

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