武田邦彦読解入門:「タバコを吸うとガンになる可能性は3分の1以下になる」ってホント!?

突然ですが、あるテストについて考えてみましょう。
テストの合格者には3種類の人がいると考えられます。

【合格者についての推定】

  • Aタイプ:もともと合格する力があった。試験勉強も行った。
  • Bタイプ:もともと合格する力があった。試験勉強は行わなかった。
  • Cタイプ:もともとは合格する力がなかった。試験勉強を行った結果、合格した。

円グラフを見ると、Cタイプが69%となっていますね。このグラフから次のことがいえます。

もし誰も試験勉強しなかったとしたら、合格者は31%に減っていただろう。
(Cタイプは合格できなかったはずなので)

この円グラフにおけるCタイプの割合を「シュウダンキヨキケンワリアイ」といいます。詳しい説明は省略するとして、ここでは以下のことを確認しておきます。

この円グラフを見て「試験勉強を行った人が69%」と解釈するのは間違いである。

試験勉強を行った人は「A+C」ですね。69%より多くなるはずです。


こんどは別の円グラフについて考えてみましょう。
肺がんで死んだ人には3種類の人がいると考えられます。

【肺がんによる死者についての推定】

  • Aタイプ:喫煙しなくても肺がんで死んでいた。喫煙も行った。
  • Bタイプ:喫煙しなくても肺がんで死んでいた。喫煙しなかった。
  • Cタイプ:喫煙しなければ肺がんで死ぬことはなかった。喫煙した結果、肺がんで死んだ。

円グラフを見ると、Cタイプが69%となっていますね。このグラフから次のことがいえます。

もし誰も喫煙しなかったとしたら、肺がん死者は31%に減っていただろう。
(Cタイプの人は肺がんで死ななかったはずなので)

この円グラフにおけるCタイプの割合を「シュウダンキヨキケンワリアイ」といいます(最初の円グラフと同じ)。ここでもとりあえず以下のことを確認しておきましょう。

この円グラフを見て「喫煙した人が69%」と解釈するのは間違いである。

喫煙していた人は「A+C」ですね。69%より多くなるはずです。

ちなみに「シュウダンキヨキケンワリアイ」は漢字で書くと「集団寄与危険割合」。英語では "population attributable risk percent"といいます*1。疫学という学問分野の基本用語です。


ここでやっと本題。武田邦彦という学者が面白い記事を書いていました。そこには「タバコを吸うとガンになる可能性は3分の1以下になる」などの記述があります。ビックリですね。全部解説するのは面倒なので一カ所だけ見てみます。

武田邦彦の記事(一部抜粋)】

この円グラフで赤く塗ってあるところが男性の「喫煙者の肺がん」です.
(中略)
この69.2%という数字は、実は「タバコを吸っても吸わなくても肺がんは同じ」ということなのです。

人の健康をダシに??政策に絡む研究のいかがわしさ(武田邦彦) - BLOGOS(ブロゴス)

どこが間違いか分かりますか?

【誤】この円グラフで赤く塗ってあるところが男性の「喫煙者の肺がん」です.

【正】この円グラフで赤く塗ってあるところは「喫煙が原因で肺がん死した(=喫煙しなければ肺がんで死ぬことはなかった)」男性の割合です。

【誤】
この69.2%という数字は、実は「タバコを吸っても吸わなくても肺がんは同じ」ということなのです。

【正】
この69.2%という数字は「もし誰もタバコを吸わなかったら肺がん死が69.2%減少していた」ということを意味します。

リンク先の武田記事には円グラフが3つ登場しますが、すべて間違った読み方をしています。その間違った読み方に基づくと…

  • 「タバコを吸っても吸わなくても肺がんは同じ」
  • 「タバコを吸うと胃がんが10分の1になる」
  • 「タバコを吸うとガンになる可能性は3分の1以下になる」

というビックリ結論が導かれるというわけですね。もちろんすべて間違いです。

今日の記事、最初のテストの話に戻ると…
円グラフの読み方がデタラメな武田邦彦さんはAタイプでもBタイプでもCタイプでもなく、「Dタイプ=不合格」だといえそうです。

武田邦彦のビックリ記事について、もっと詳しい解説が読みたい方は、下の参考リンク先「NATROMの日記ー「タバコを吸うとガンになる可能性は3分の1以下になる!」。何が何だか分からないよ!」をお読みください。ぼくも勉強させていただきました。ありがとうございます。

(参考)

→タケダくん vs 小学生

*1:「人口寄与危険割合」ともいう