ホテルヒルベルト 〜無限の部屋〜

【団体客】

ホテルヒルベルトには無限の部屋があるそうだ
その日ホテルは満室だった

Room No.1
Room No.2
Room No.3

Room No.100

Room No.1000

Room No.123456

どの部屋をノックしても
部屋番号と同じ数字のカードをもった宿泊客が
滞在しているのだという

そこに100名の団体がやってきた
本日はあいにく満室ですと
フロント係が丁重にことわるが
団体客はほかに泊まるところがない
何とかしてほしいと騒ぎだした

フロント係はしばらく悩んだあと
宿泊客に部屋を移動するようにたのんだ
どの宿泊客も「自分のカード番号+100」の
部屋に移動してくださいと

カード番号1の客は Room No.101の部屋へ
カード番号123456の客は Room No.123556の部屋へ

あとからやってきた100名の団体は
Room No.1から100の部屋に
無事宿泊できることになった

【一人部屋】

ホテルヒルベルトには無限の部屋があるそうだ
その日ホテルは満室だった
どの部屋をノックしても宿泊客が滞在中
しかも各部屋に2人ずつ!!

Room No.1……カード No.1, 2
Room No.2……カード No.3, 4
Room No.3……カード No.5, 6

Room No.100……カード No.199, 200

Room No.1000……カード No.1999, 2000

Room No. n……カード No. 2n-1, 2n

ところが夕食後 宿泊客たちは
やっぱり一人部屋がいいと騒ぎだした
空き部屋はひとつもありませんと
フロント係が説明しても
ますます騒ぎは大きくなるばかり

フロントはしぶしぶ言った
では皆さん部屋を移動してください
宿泊客たちは自分のカード番号と
同じ番号の部屋に移動した

Room No.1……カード No.1
Room No.2……カード No.2
Room No.3……カード No.3

Room No.100……カード No.100

Room No.1000……カード No.1000

Room No. n……カード No. n

すると全員が部屋をあたえられ
ぐっすり眠ることができた

【ぼくの場合】

ホテルヒルベルトには無限の部屋があるそうだ
そんな噂のホテルに
ぼくはようやくたどり着いた

いらっしゃいませ
品のよいフロント係に
ぼくは唾をごくりと飲み込んで言った
今夜泊まれますか

フロント係は丁重に答えた
ありがとうございます
本日はすべての部屋があいております
どのお部屋でもご自由にお選びいただけます

無限にある部屋からたったひとつ選べだなんて
ぼくは無限の空間にただひとり
投げだされたような気がして
目がくらくらした