武田邦彦先生の「正しい」トークショー・その3

「空気感」について

実際の質問は、論点4→3→2→1の順で行いました。といっても、きちんとした議論が成立したわけではありません。似て非なる話を延々とつづけたり、「私は以前十分に調べた」と言い張ったりしましたが、きちんと論拠を示した回答らしい回答はひとつもありませんでした。細かいところはぼくの記憶違いがあるかもしれませんが、だいたい以下のような流れでした。

【論点4】
日本人男性のうち1000人に1人が肺がんになる。残りの999人は「タバコを吸っていたにもかかわらず、肺がんにもならず健康だった、ということ」

まずタケダ先生は「日本人男性の1000人に1人が肺がんになる」あるいは「1000人に1人弱が肺がんで死亡する」というデータが厚労省などのホームページで確認できることを知りませんでした。また「日本人男性の肺がんによる死亡率」を訊ねても、「死亡者数」とゴッチャにして要領を得ない答えが返ってくるばかりでした。
そして「残りの999人」の内訳について、タケダ先生の解釈がデタラメであることを指摘すると、「言っていることの意味が分からない」というような反応に。著書の記述について訊ねているわけですから、質問の意味くらい理解していただきたいところでしたが。

【論点3】
男性の人口は約6000万人ですから、喫煙者率70%ですと、喫煙者数は4200万人になります。

「未成年の喫煙者について私はいろいろ調べたんだ」というような回答。「いろいろ調べた」と言うだけでは「0歳〜19歳までぜんぶ含めてしまっている」ことの説明にはなりません。

【論点2】
肺がんのリスク(4.5倍)と全てのがんのリスク(1.5倍)がゴチャゴチャになっている点について。

「そんな数字を部分的に言われても意味がわからない」というような回答。ここ、すごく大事なところなんですけど「意味がわからない」で済ませてしまっていいの? あとでゆっくり考えてみてくださいね。

【論点1】
「喫煙者数が減っているのに、肺がん死亡者が上昇している」ことについて。

まず、喫煙者と非喫煙者のリスクの比がどんな学問分野で研究されているかを訊ねると、少し考えてから「公衆衛生学」というような答え。当たらずとも遠からずですが、ぼくが訊きたかったのは「疫学」でした。タバコパッケージに「疫学的推計によると」と載っている疫学ですね。
「この疫学の入門書を1冊でもお読みになったことがありますか」と質問すると、モゴモゴと口ごもったあと「昔は何冊も読んだ」というような答え。本当かなあ…

この「論点1」のトピック、つまり「年齢調整の必要性」は疫学の入門書の冒頭に載っているような基本的な話なのです。そのことを説明しようと思ったら、司会のナカムラさんから時間切れのストップが入ってしまいました。

ぼくの質問についてのナカムラさんのまとめは、「"正しさ"にはいろいろあるので、本の最初の方を読んでくださいね」。時間切れは残念でしたが、4つも質問できたことはなかなか有意義だったと思います。感謝。

質問コーナーが終わった後は、サイン会。4つの質問への具体的な回答がひとつも返ってこなかったのはともかく、サインと握手してもらって、写真まで一緒に撮ってくださって、とてもいい時間が過ごせました。武田邦彦先生、どうもありがとうございました。

ここまで主に質疑応答の論点について書きましたが、もうひとつ気づいたのは「会場の空気感」です。ぼくはタケダ先生の記述について「デタラメ」と断言しました。もちろんそう言えるだけの根拠があるからですが、「会場の空気」は決して和やかとはいえなかったように思います。B&Bの方、会場にいらっしゃった方、ぼくの質問が「場の空気」にそぐわなかったとしたらゴメンナサイ。

でも、ぼくは皆さんにお願いしたいです。「何となくの空気感」ではなく「そこに何が書かれているか」を、いちどご自身で検証してみてください。

基本的な資料を調べる。自分の手で計算してみる。がんばれば中学生でもできるレベルの話です。だけどほとんどの読者は自力で検証することなく、何となくの「空気感」で「○○は正しい」「××は間違っている」と判断してしまいます。p169〜173の数ページだけでいいので、ぜひ自分の頭を使って「問題」に取り組んでみてください。そうすれば必ず新しい発見があるはずです。

そしてもし、今回の記事の論点1〜4について、自分の頭で考えたうえでタケダ先生の記述が正しいと思う方がいらっしゃれば、遠慮なくコメントしてください。ここはオープンな場です。一緒に検証しましょう。もちろんタケダ先生ご本人も大歓迎ですよ。

(終わり)