言問橋のミルフィーユ

隅田川には言問橋(ことといばし)という、ちょっと変わった名前の橋が架かっている。平安時代に京の都から東国の田舎にやってきた色男、在原業平(ありわらのなりひら)が、「わたしが思う人は元気でいるだろうか」と鳥に尋ねたという歌にちなんでつけられた。

関東大震災後に復興事業の一環として橋が架けられた。昭和20年、東京大空襲の夜は悲惨だった。浅草方面に逃げようとした向島の人々と、向島方面に逃げようとした浅草の人々の、黒こげになった死体が橋と隅田川を埋め尽くした。橋の石はいまでも黒く焼けたままだ。

2012年には東京スカイツリーがオープン。歴史はミルフィーユのように、積み重なって。