答えのない質問(谷川俊太郎「これが私の優しさです」)

「これが私の優しさです」という谷川俊太郎さんの詩がある。12行の詩の中に7つの質問が登場するが、不思議なことに、その質問はおそらく答えを求めてはいない。

これが私の優しさです

窓の外の若葉について考えていいですか
そのむこうの青空について考えても?
永遠と虚無について考えていいですか
あなたが死にかけているときに

あなたが死にかけているときに
あなたについて考えないでいいですか
あなたから遠く遠くはなれて
生きている恋人のことを考えても?

それがあなたを考えることにつながる
とそう信じてもいいですか
それほど強くなっていいですか
あなたのおかげで

出典:『自選 谷川俊太郎詩集』(岩波文庫

この詩の語り手は、死にかけている「あなた」に向かってYes/No の答えを求めているわけではない。「書いたけれど投函しなかった手紙」のようなもので、「心に浮かんだけれど口に出さなかった質問」なのだろう。

「あなた」だけを考えることが求められる状況で、「窓の外の若葉」「そのむこうの青空」「永遠と虚無」「生きている恋人」について思いをめぐらせる。そこでは、「私」と「あなた」のシンプルな1対1ではなく(ひとはそこまで純粋になれない!)、良いことも悪いことも全部ひっくるめて包み込んでしまうこの世界のなかで、「あなた」とのつながりをもういちど探し出そうとしているかのようだ。

それがあなたを考えることにつながる
とそう信じてもいいですか
それほど強くなっていいですか
あなたのおかげで

すべての質問が、答えを求めているとはかぎらない。質問すること自体が、ある方向に眼差しを向けることもある。