「我が社は世界平和のために武器を作っています!」(WHYの用法)
「なぜ生きるか」を知っている者は、ほとんど、あらゆる「いかに生きるか」に耐えるのだ。(ニーチェ)
“He who has a why to live for can bear almost any how.”
前回の記事「サイモン・シネックのTEDトークと質問学」でWHYから考えることの大切さについて書いたところ、友人が次のようなコメントをもらいました。「サイモン・シネックの動画はいろんなところで取り上げられていて、その通りだとも思うんだけど、「なぜ」って質問、ヒトに嫌われがちだから、どうやったら嫌がられずに答えてもらえるかしらって悩む(涙)」。
たしかにWHYという質問は根柢的であるがゆえに、扱い方が難しいところがあります。まずは、WHYの性質を考えてみましょう。
◎WHYは深いところに隠れている。
WHAT(なにを)やHOW(どのように)に比べてWHY(なぜ)の答えは深いところにあって、表面から見えません。「あなたは今何を着ているのか?」という質問には具体的に答えることができますが、「なぜそれを着ているのか?」という質問にははっきりした答えはありません。
「我が社は世界平和のために武器を作っています!」という発言があったとします。ここで語られるWHY(=世界平和のため)が、本当の理由かどうかはわかりません。もしかしたら本当の理由は「金儲けのため」「勝利の快感を得るため」なのかもしれません。
WHYという質問は(大げさにいえば)相手に「服を脱いで裸を見せてくれ」というようなものです。表面から見えない部分を見せることに抵抗があるのも仕方がないともいえます。
一流のプロ野球選手に「あなたはなぜ野球選手になりたいと思ったのですか?」と質問すれば、よろこんで答えてくれるかもしれません。一方、プロ野球選手になりたかったけれど挫折した人に同じ質問をしても、進んで答えてくれるとはかぎりません。
WHYは深いところにある。表面からは見えない。このことを押さえておきましょう。
◎WHYの使い方
『20代で身につけたい質問力』(清宮普美代著/中経出版)では、「なぜ?」という質問が尋問・詰問にならないように「We(私たち)視点の質問」を薦めています。
「なぜ○○できないのですか?」「なぜ、やろうとしないのですか?」という質問なら、「(私たちは)どうしたらできるだろうか?」というように「同じ岸からの質問」に置きかえるのも、ひとつの手です。
『「問題」を1秒で解決するするどい「質問力」』(谷原誠著/三笠書房)でも、「WHYという質問は、相手に論理性を要求するため、「なぜ?」と聞かれた人が苦痛を感じる傾向にあります」と説明されています。
もし雑談ならばなるべくWHYをHOWやWHATに置き換えるのも、ひとつの方法です。「私は釣りが好きです」に対してなら、「なぜ釣りが好きなんですか?」(WHY)よりも、「釣りを楽しむにはどうしたらいいんですか?」(HOW)とか「釣りの魅力はどんなところでしょうか?」(WHAT)の方が、相手は素直に答えやすくなります。
逆に、相手や自分の頭をフル回転させたいときには、積極的にWHYを使えばいいということになります。
物事を根本的に見つめ直すがゆえに、相手に深い思考を要求するWHY。相手との関係や状況を見極めながら、上手く活用していきたいものですね。