タバコ問題:なぜ嘘がまかりとおるか?

飯島勲さんもっとお勉強を

「まさる」さんからコメント欄で教えてもらった情報ですが、元・小泉内閣秘書官で現・安倍内閣官房参与の飯島勲氏も「喫煙と肺がんは無関係」だと主張しています。

喫煙率が年々ここまで下がっているのに肺がんが急増しているのを考えれば、タバコを肺がんの原因とするのは間違いだ。喫煙者の医療費と非喫煙者の医療費を 比較しても明らかに喫煙者の医療費が少ない(本誌2012年4月2日号)。東京に住んでいるならクルマの排ガスのほうを問題にすべきだし、西日本では中国 からのPM2.5健康被害も甚大だ。

出典:世界のセレブはなぜ、タバコを吸うか - 飯島 勲 「リーダーの掟」

もちろんこれは間違った認識です。日本の政治の中枢にいる方が「喫煙と肺がんは無関係」という都市伝説を信じているとしたら困ったものですね。お忙しいことは重々承知していますが、少しは勉強してくださると国民として嬉しく思います。

(参考記事)
○2015-12-03 武田邦彦ブログで「錯覚取りの練習」をしてみよう
○養老孟司の壁のバカ(タバコは肺がんリスクなし?)

ついでにいえば、飯島氏はタバコよりもクルマの排ガスや中国からのPM2.5健康被害を問題にすべきだと主張しています。「PM2.5」とは粒径2.5マイクロメートル(=0.0025mm)以下の微粒子状物質のことですが、タバコの煙の中にも多くのPM2.5が含まれています。飯島さん、もしご存じなかったら、厚労省のホームページで勉強してくださいね(笑)

出典:厚生労働省 e-ヘルスネット PM2.5と受動喫煙
(参考記事)
○<東京五輪の禁煙化>「共存共栄」論の危うさーー受動喫煙は「環境問題」である


◎なぜ社会的地位のある人が嘘の情報を流すのか?

さて、コメントをくれたまさるさんは、飯島勲養老孟司といった社会的地位のある人がなぜこんなことを言うのか(=嘘の情報を流すのか)理解できないといいます。わたしも理解できません(笑)。しかし非常に興味深いところです。

わたしはこの問題について、少なくとも3つのことがいえると考えています。

  1. 「喫煙者が減っているのに肺がんは増えている。だから喫煙と肺がんは無関係」という主張は、学会ではまったく通用しない。(「高齢化」で十分説明できるので)
  2. とはいえ、「喫煙と肺がん」といった何十年にもわたる因果関係は、交通事故による死亡のようには直接見えないので、理解しづらいところがある。
  3. 「タバコと肺がんは無関係」という主張には一定の需要がある。(そう信じたい人が多くいる)

学術的には決着済みの問題ではありますが、社会的なコンセンサスを目指していくならば、「人は論理よりも心理で動く」ことを念頭に対応を考える必要があります。たとえるなら、間違ったことを言う中学生に正論をぶつけても、納得するとはかぎりません。中学生の心を動かしたいのなら、一方的な正論の押しつけではない方法をさがす必要があります。


養老孟司のウソ

ところで養老孟司は、作家の林真理子との対談でこんなことも言っています。

林:ところで先生、さっきからたばこをスパスパお吸いですけど、それはこれまでたくさんのご遺体を解剖された結果、たばこを吸っても吸わなくても人間の肺には関係ないことがわかったからですか。

養老:僕が解剖した人、みんな真っ黒だったもん。じいさんもばあさんも。肺が黒くなるのは、消化できないゴミが入って、細胞が食ってためてるからなんです。

林:たばこを吸おうと吸うまいと……。

養老:大差ない。

林:先生が言うと説得力がありますよ。

タバコは肺がんリスクなし? 養老孟司が禁煙しない理由

解剖学者で元東大教授の養老氏が言うと、なんだか説得力があるように思えますね。なにより、わたしたち一般人にしてみれば、人の肺を解剖して直接見る機会はなかなかありません。こんなときはどうすればのでしょう?

先月たまたま高校の同窓会がありました。そこで会った1年先輩の人がお医者さんでした。もともとは外科出身で現在は40代半ばの若さで某医大の教授をしています。人体の解剖経験が豊富なその先輩に質問すると、喫煙者の肺はやっぱり真っ黒で、非喫煙者の肺とのちがいは明らかだと仰っていました。養老孟司の話(=喫煙者も非喫煙者も肺は変わらない)「そんなのウソ、ウソ」と笑って答えていました。


飯島勲養老孟司…社会的地位のある人がなぜ平気で間違った情報を流すのか。理由ははっきりしないけれど、言論が自由な日本社会では、よくあると思っておいたほうがいいかもしれませんね。(もちろん飯島さん、養老さんから「いやいや嘘じゃない」という反論があれば、もちろんきっちり対応しますよ)