核となる質問の発見--村上龍
核となる質問は、本質的で、コアな疑問が浮かび上がることによって生まれる。何よりも大切なのは、「好奇心」であり、またある程度の知識も必要だ。
(中略)
何よりも大切なのは、常識にとらわれない「好奇心」だ。要は、「あれ? なんでこんなことが可能だったんだ?」「これはちょっとおかしいぞ」というような、「王様は裸だ」的な、素朴な疑問に気づくことができるかということだ。
以前紹介した阿川佐和子『聞く力』でも、「インタビューするときは、質問を一つだけ用意して、出かけなさい」という先輩アナウンサーの言葉や、「三本ぐらいの柱」を用意するという彼女自身の方法がありました。
村上龍が示す「核となる質問」という概念も重なるところがありますが、本質を拓くための核となる質問をすることで、インタビュー全体をダイナミックな物語として構築するという意志がより強調されているように思いました。
※例:「富士フイルム」古森重隆氏
「デジカメの圧倒的な普及により、あのコダックも、アグフアも、ポラロイドも今はない。富士フイルムを除いて、全部事実上、消滅した」
というのが歴史的事実としてある。そこで、不思議なことに気づく。
「でも、そもそも、どうしてフィルムメーカーは、それほど数が少なかったのか」
ポラロイドを除いたフィルム事業は、世界でも、コニカ、富士、コダック、アグフアの四社しかなかった。それはなぜなんだろう? という視点を加えることで、質問を考えていく。(同書 p23)
小さな質問をいくら多く重ねても、樹木でいえば枝や葉っぱのようなもので、対象となる人物や企業の全体像は浮かび上がってきません。資料を読み込んだうえで「核となる質問」を発見し、それを相手に投げかけることではじめて、物語のダイナミズムをもたらす「幹」を見つけることができます。
村上龍は、富士フイルムの資料を読んで、どうしてフィルムメーカーが世界に四社しかなかったのかを理解しました。カラーフィルムというのは、ベースフィルムの上に100種類以上の化合物を含む約20層の乳剤を塗布するが、各層の昨日をコントロールすることが非常にむずかしく、市場への新規参入がほぼ不可能だったのです。
そのうえで「核となる質問」を発見します。
そして、後発メーカーであった富士フイルムの「チャレンジャー精神」の話、また写真の技術の他事業への応用を模索する「産業材料部」の話を引きだします。
日常の場面でも、「核となる質問は何か?」と考え問いかけることで、その話題や人物の理解を深められるのではないでしょうか。