主観と客観

日本語の「主観」「客観」は、明治初期に西周がつくった訳語です。「主観ー客観」はドイツ語で Subject, Objectですが、この概念はアリストテレスのhipokeimenon, antikeimenonまで、一応、遡ることができます。 でも「主観ー客観」の概念が現在使われているような意味でアリストテレス時代から使われてきたかといえば、ぜんぜんそんなことはなく、びっくりするぐらい変化しています。

とても一言では書ききれませんが、たとえば中世から近代初頭にかけては、ラテン語 subiectumが「それ自体で存在する客観的存在者」、objectumが「主観的表象」を意味していたそうです。これがカントのあたりで逆転し、 Subjectが「主観」を、Objectが「客観」を意味し、この頃はじめて二つの概念が対をなすようになりました。デカルトの realitas obiectivaとカントの objective Realitätも、まったく逆の意味になるようです。

つまり、「主観ー客観」という概念装置は、たかだかカント以後の歴史的な産物にすぎないということです。

(参考:岩波「哲学・思想事典」)