「矛盾」ってなんだ?
※矛と盾と空飛ぶ豚(証明編)のつづき
画家は言った。
「これはパイプではない(パイプの絵である)」哲学者は言った。
「これがパイプであり、かつ、パイプでない。ということはない」
矛と盾と空飛ぶ豚(証明編)にkuwaさんが面白いコメント寄せてくれました。
最強の矛と最強の盾。
穴は開くが貫通はしないではだめなんでしょうか?
矛と盾、どちらの強さも受け入れて勝負がつかないばあいはどうなるのか、ということですね。これに答えるには、そもそも「矛盾」とは何かを知る必要があります。
「矛盾」の故事を記した韓非(かんぴ)は紀元前3世紀の人ですが、ここでは紀元前4世紀のギリシャで活躍した大思想家アリストテレスによる説明を紹介します。
アリストテレスはこう書き残しました。
同一のものが同一のものに即して、同一のものに同時にありかつあらぬということは不可能である。
なんのことやらさっぱりわかりません。もう少し易しい言い方をするとこうなります。
ある物が同じ観点から同時に、「…である」かつ「…でない」となるのは不可能である。
(『論理ノート』D.Q.マキナニー著・水谷淳訳/ダイヤモンド社 P41)
つまり、矛盾とは「○○であって同時に○○でない」ということ。そんな矛盾は起こりえないという根本原理が「矛盾律」です。(現代の論理学における定義は少し違いますが)
それを踏まえて、kuwaさんの疑問に戻ります。
- 「どんな盾も突き通す矛がある」……(1)
- 「どんな矛もふせぐ盾がある」……(2)
この(2)からは「どんな盾も突き通す矛はない」ことがいえます。少なくともひとつの盾は突き通せないわけですからね。すると…
- 「どんな盾も突き通す矛がある」……(1)
- 「どんな盾も突き通す矛はない」……(2’)
となり、「…である」と「…でない」の矛盾ができあがります。この(1)(2’)が両立しないということ。
「穴は開くが貫通しない」については、その状態が「突き通した」のか「突き通していない」のかの基準を決めておく必要があります。基準をきちんと決めた場合に「突き通した」と「突き通していない」が同時には起こりえないということだと考えればいいのではないでしょうか。