そこに「愛」はあるか?
ロゴスとロジック(言葉と論理)のつづき
【問題】
この絵のなかに愛はあるでしょうか?
これはラファエロの「テンピの聖母」という絵です。
今回、「愛が描かれた絵画」を捜そうと思って真っ先に思い浮かんだのがラファエロでした。でも、ここには本当に愛が描かれているのでしょうか?
それは「愛」や「描く」の定義によります。
上司が部下に対して資料さがしを命じたとします。
上司:「愛が描かれた絵を捜してきてくれ」
部下:「はい」
↓
部下:「捜してきました」
上司:「これのどこに愛が描かれているんだ?」
部下:「どこにって…」
上司:「ここに描かれているのは女性と赤ちゃんと背景だけだ」
部下:「……」
ここでは「描く」という言葉の意味がすれ違っています。
部下は「それを見た人が愛を感じる絵」を捜してきましたが、上司は文字どおり「絵の具で絵を描く」という意味で命令していたというわけです。(だとしたら「愛」をどうやって描くのかが問題ですが)
こんな会話もあるかもしれません。
上司:「愛が描かれた絵を捜してきてくれ」
部下:「はい」
↓
部下:「捜してきました」
上司:「おれが言ったのはカップルとか夫婦とかが抱き合ったり見つめあったりしている絵のことだ」
部下:「……」
この場合、上司は男女がお互いに抱くロマンティックな感情を念頭に置いていたというわけです。
世の中には、こんな上司と部下もいるかもしれません。
部下(女):「あたしのこと愛してなかったのね」
上司(男):「愛していたさ」
部下(女):「じゃ、なんであの女と別れてくれないの?」
上司(男):「もうちょっと待ってくれ。いろいろ事情があるんだ」
部下(女):「やっぱり愛してないじゃない」
上司(男):「愛してるさ」
この場合、部下である女性は「愛している」の基準を男性上司よりも狭く設定している可能性があります。
ビジネスでも、プライベートでも、ビジネスとプライベートが混在したシーンでも、言葉の曖昧性には要注意です。
男:「愛してるよ」
女:「いま使った愛の意味を、できるだけ正確に定義してもらえる?」
かといって、日常会話で登場する言葉の定義をぜんぶ確かめるわけにもいかないですよね。