ハンプティ・ダンプティと言葉の意味

そこに愛はあるか?のつづき

「こりゃあ名誉なことだなあ」

「名誉って、どういう意味で?」

ハンプティ・ダンプティはふふんとせせらわらって、「わかるわけないだろ、ぼくが教えないかぎり。つまり<こてんぱんに言いまかされたね>っていう意味でいったんだ」

「でも、<名誉>と<こてんぱんに言いまかす>ってのと、意味がちがうでしょ」アリスは口をとがらせる。

「ぼくがことばを使うときは、だよ」ハンプティ・ダンプティはいかにもひとをばかにした口調で、「そのことばは、ぴったりぼくのいいたかったことを意味することになるんだよ。それ以上でも、それ以下でもない」

(『鏡の国のアリス矢川澄子訳/新潮文庫

ある対象とそれを示すコトバとの関係は、博物館の展示物と名札のような関係だと、わたしたちはふだん何となく思っているのではないでしょうか。

卵がある。そこに「卵」という名札をつける。これが意味とコトバとの関係なのだと。
その卵についた「卵」というラベルを"egg"という別のラベルに交換する。それが翻訳という作業なのだと。
意味は最初から存在していて、コトバはその確定した意味についたラベルである。

こんな「対象ー意味」の固定的な見方を、ハンプティ・ダンプティはいともあっさり否定するのです。