1/2の予言者は何がおかしいか?(確率の定義)
議論が混乱している場合、そもそもの前提がおかしいことがあります。そんなときは前提に遡って考えることで問題が整理できます。
今回、怪しい前提は何でしょう?
「確率」の意味(定義)ですね。予言者は『確率』の意味を間違って使用しているのではないだろうか? そんな疑問を念頭におきながら「確率」の定義を再確認してみることにします。
(予言者)
「このサイコロを振って1の目がでる確率は1/2
なぜならこのサイコロは1の目がでるか
でないかのどちらかだからだ」
サイコロを振ったとき起こる可能性は「1の目がでる」「1の目がでない」の2通り。 これ自体は間違いではありません。 だからといって「1の目がでる確率は1/2」といえるかどうかですね。
そもそも「確率」とは何かを確認してみましょう。
「ある事象の起こる確率 pとは、それが起こる割合のことである」
(『高等学校の確率・統計』(ちくま文庫)p46)
もう少し詳しく見てみます。
確率の定義と意味
↑
このページの説明をみると、確率の定義は歴史的にいくつかの変遷を遂げてきたことがわかります。たとえば…
【ラプラスの定義】
ピエール=シモン・ラプラス(1749-1827)による古典的な定義。
(1)確率とは「事象Aが起こる場合の総数」と「可能な全ての場合の総数」の比である。
(2)ただし、どの場合も同じ程度に可能であるという前提。
「1の目がでる」「1の目がでない」の場合は、(2)の「どの場合も同じ程度に可能」という前提をみたしていません。
【頻度説】
たとえばサイコロを数千回投げたときに1が出た度数(頻度)を数えて、その割合を記録する。
これを一般化して、無限回の実験を行ったときの頻度として確率を捉える。
サイコロを何度も何度も、無限回振ったとき「1の目がでる頻度」は1/2に近づいていくか? 近づかない。そこがおかしいといえそうです。
このように、「そもそも確率とは何か」という定義に遡って考えることによって、議論のどこがおかしいかが見えてきます。
6面体のサイコロを振って出る目は6通りあります。
あり得る可能性を列挙すると
Ω={1,2,3,4,5,6}
となります。
いま、それぞれの目の起こりやすさを次のように考えます。
L(Ω)=1:1:1:1:1:1
つまり、1〜6のどの目も同程度に出やすいと設定します。
すると、それぞれの目が出る確率はそれぞれ1/6です。
P(1)=1/6
P(2)=1/6
P(3)=1/6
P(4)=1/6
P(5)=1/6
P(6)=1/6
1の目が出る確率は
P(1)=1/6
1以外の目が出る確率は
P({2,3,4,5,6})=1/6+1/6+1/6+1/6+1/6=5/6
「1の目がでる確率は1/2 」(予言者の発言)にはなりませんね。当たり前ですが。
議論が混乱しているときはいったん前提に遡って考えてみる。
この考え方は日常のあらゆる場面で役に立つはずです。