レオナルド・ダ・ヴィンチの質問10選

ネット検索するだけで「答え」が手に入る現代。人間や世界についてのワクワクした気持ちを忘れてしまっていないでしょうか。

500年前のヨーロッパに生きたレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)が書き残した質問を振り返ってみましょう。彼はこの世界に対してどんな眼差しを向けていたのでしょうか。

【Q1】何故自然はある動物が他の動物の死によって生きてはならないと定めなかったのか。

この質問では、動物が動物を食べることについて、考えを巡らせています。そして彼は、つぎのように考えますーー「自然は動物を夥しく想像しながら、数の調整をしている。他の動物の餌にならない人間については、自然は疫病などを送り出すのだろう」(大意)と。

【Q2】
錘(おもり)○ はなぜその位置にとどまらないのか。
そこにとどまらないのは抵抗力がないからである。
では、どこへ向かって動くのか。
それは(重力の)中心に向かって動く。
では、なぜほかの道筋をとらないのか。
なぜなら、支持物のない重力は最短の距離を通っていちばん低い場所、つまり地球の中心へと落下するからである。
しかし、なぜ重力はそんなにたやすく地球の中心を見出すことができるのか。
それは感覚をもたないために、あちこちの方向をさまようことがないからである。

【Q3】
もし月がその諸要素の中で特殊な位置[中心]を占めていないとすれば、なぜわれわれ[地球]の諸要素の中心に向かって落下しないのだろうか。

万有引力を発見したニュートンより2世紀早く、こんなことを考えていたんですね。

【Q4】光に照らされた諸部分のうち、なぜある部分が他の部分より明るいのか、その理由と説明。

【Q5】天体の摩擦について、天体は音を立てるかどうか。

【Q6】なぜ雷はそれを引き起こすものより長くつづくか。なぜ稲妻は、その発生すると同時に目に見えるのに、雷は波のように運動する時間を要するか、かつそれが最大の抵抗にぶつかるとき最大の喚声を発するか。

【Q7】どうして人間を除く他のすべての動物ーー蹼(みずかき)のついた足を有するーーは生まれながら泳ぎ方を知っているのか。どういうふうに人間は泳ぎを習わねばならぬか。

この世界についての疑問が次々とあふれます。

【Q8】なぜ夢のなかでは、目が覚めているときに想像するよりも、はっきりと物が見えるのだろう?

【Q9】おお寝坊ものよ、眠りとは何であるか?

9番目の質問は、以下のようにつづきます。

眠りは死に似たものである。おお、それではなぜおまえは、生きながらいやな死人に似た眠りをむさぼるのをやめて、死後に完全な生き姿をのこす作品をこしらえないのか。

私には次の質問が特に印象的でした。

【10】可愛想に、レオナルドよ、なぜおまえはこんなに苦心するのか。

レオナルド・ダ・ヴィンチは、芸術の分野における天才である以前に、この世界について疑問をもち質問を発する天才でした。私たちもときどき彼のような眼差しをもてば、人間について、自然について、自分なりの発見にであえるかもしれませんね。

【出典】
レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』(上/下 岩波文庫
レオナルド・ダ・ヴィンチ 天才の素描と手稿』(西村書店