養老孟司の壁のバカ(タバコは肺がんリスクなし?)

毎度のことなのでスルーしようかと思ったのだけど、ついついコメントしてしまいました(笑)

養老:というか、肺がんに関してはそういう話になってるんです。ここ10年間、喫煙率はきれいに下がってるのに、肺がんの患者数はきれいに上がってる。そのグラフを二つ並べて、「肺がんの原因は禁煙だ」と言ってるんです(笑)。

タバコは肺がんリスクなし? 養老孟司が禁煙しない理由

これは使い古されたトリックですね。

(1)喫煙率減 肺がん死増

(2)喫煙は肺がんの原因ではない

たしかに(1)は事実だけれど、(1)→(2)というロジックの飛躍を鵜呑みにしないことが大切です。

「喫煙率減 肺がん死増」という現象は、少なくとも2とおりの方法で説明できます。
(a)喫煙は肺がんの原因ではない
(b)喫煙以外に肺がん死が増加するもっと大きい原因がある

(a)の説明は一見もっともらしいですが、「喫煙者と非喫煙者グループを比較すると、人種・年齢層・男女を問わず喫煙者グループの肺がん死亡率が何倍も高い」という別の現象が説明できません。その意味で、(b)の方がよりよい説明になります。

ではこの場合、肺がん死者数の増加に大きく関与している要因は何か?
それは日本社会の「高齢化」です。

日本人の生活水準が向上し、医療が発達した結果、結果的に肺がんで亡くなる人が増加しています。それが統計上、肺がん死増加として現れています。

たとえるなら、「新品の輪ゴム」と「長期間経って酸化した輪ゴム」を比べると、後者の方が切れやすいようなものです。

この高齢化の影響を排除するために各時代の年齢構成を同じにしてあげると(輪ゴムのたとえなら古さを揃えてあげると)、日本人男性の肺がん死亡率は1990年代半ばから減少傾向にあることがわかります。

養老先生は話がお上手ですが、喫煙率減・肺がん死増から「喫煙と肺がんは無関係」(「肺がんの原因は禁煙」)を仄めかすのは、使い古されたトリックなので、皆さん鵜呑みにしないよう、くれぐれもお気を付け下さい。



【追記】2015.11.17

科学リテラシーのワークショップをするなら、たとえば、こんな質問が考えられるかもしれませんね。

科学リテラシー・ワークショップ>(仮)

【質問1】
養老先生は元東大医学部教授でベストセラー本の著者でもあります。あなたの考えは次の(1)(2)のどちらですか?

(1)養老先生の言うことなら間違いない。
(2)養老先生が間違ったり嘘をいうこともありうる。

【質問2】
この数十年間で日本人男性の喫煙率は下がる一方、肺がん死者数は増加しています。このことから何が分かりますか?

(1)喫煙と肺がんは無関係だ。
(2)喫煙以外に肺がん死者数が増加する要因がある。
(3)その他

【質問3】
喫煙以外に肺がんが増加する要因として何が考えられますか?(自由回答)



【追記2】2015.11.18

年齢調整の必要性は、下のようなビジュアルで考えることもできます。

(年齢調整前)
1965年 若若若若若若若 老老老
1990年 若若若若若 老老老老老
2015年 若若若 老老老老老老老

(年齢調整後)
1965年 若若若若若若若 老老老
1990年 若若若若若若若 老老老
2015年 若若若若若若若 老老老

年齢調整前は若者と老人の割合が揃っていないため、肺がんが増えたといても、その原因がタバコかどうかわからない。喫煙と肺がんの相関関係は、年齢調整して若者と老人の比率をそろえてやると、よりわかりやすくなる。