海軍に入隊した方が安全?(『統計で嘘をつく法』より)

ロングセラー『統計で嘘をつく法』(ダレル・ハフ著/講談社ブルーバックス)に載っている話。

アメリカとスペインが戦った米西戦争(1898年)のあいだ、米海軍の死亡率は1000人につき9人だった。一方、同期間のニューヨーク市における死亡率は、1000人につき16人だった。米海軍の新兵募集では、最近、この数字をつかって海軍に入隊した方が安全だと宣伝するようになった。

出典:『統計で嘘をつく法』p134(表現を一部改訂)

ニューヨーク市にいるよりも海軍に入隊するほうが本当に安全なのでしょうか? 皆さんもぜひ考えてみてください。海軍の死亡率は1000人につき9人だから、0.9%。同時期のニューヨーク市の死亡率は1000人につき16人だから、1.6%。たしかに、海軍に入隊した方が死亡率が低くなるようにみえますが…???



この答えは単純で、「そもそも母集団の構成が違うから、2つの死亡率は比較できない」ということになります。

海軍は大部分が太鼓判付きの健康な青年たちから成り立っています。一方、ニューヨーク市民の中には、赤ん坊もいれば、年寄りや病人もいます。海軍の死亡率がニューヨーク市全体よりも低いからといって、海軍に行った方がニューヨーク市にいるよりも安全であるかどうかはわからないのです。

「喫煙率は下がっているのに、肺がん死亡率は増えている」も、似たところがありますね。数十年前と今では母集団の構成が違います。とくに日本社会の年齢構成は大きく変化しています。そのことを無視して「タバコと肺がんは無関係」というような自称「科学者」の言葉は鵜呑みにしないようにしましょう。

この記事の米海軍のエピソードは、コメント欄で「仙台五四郎」さんに教えていただきました。

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