妻を殴る質問(不当予断の問い)

妻を殴るやつ

「ワイフビーター」(wife beater)という英語があります。文字どおりの意味は「妻を殴るやつ」ですが、袖なしの「ランニングシャツ」「タンクトップ」をさすスラングでもあります。

グーグルで画像検索すると、たくさんヒットしますね。妻を殴る奴がいかにも着てそうなイメージなのでしょうか。

あなたはもう妻を殴ることをやめましたか

この「妻を殴る奴」に関連して、有名な質問があります。

【質問】
「あなたはもう妻を殴ることをやめましたか?」

この質問は少々厄介です。なぜなら「はい」「いいえ」どちらで答えても、「妻を殴っていた」ことを認めたことになってしまうからです。

「はい」(もうやめました)
「いいえ」(まだやめていません)
…???

これはどう考えたらいいのでしょう?

不当予断の問い(loaded question)

このような形式の質問を「不当予断の問い」(loaded question)といいます。複合的質問の誤謬(complex question fallacy)と呼ぶこともあります。

この質問が厄介なのは、質問の中に「妻を殴っていた」という主張が前提されているからです。

同じような質問は他にもいろいろ考えられます。そこにどんな前提が隠されているか、また、このような質問に対してはどんな切り返し方が有効なのか、みなさん考えてみてください。

  • あなたはもう万引きはやめましたか?
  • あんなバカな奴とつき合っていたことを反省したか?
  • 君は戦争推進政党を支持するのか?
不当予断の問いへの対処法

では、この手の質問にはどう切り返せばいいのでしょうか。答え方を2つ紹介します。

【答え方1】
私は妻を殴っていません。

不当予断の問いの隠れた前提(妻を殴っていた)を否定する答え方ですね。これはこれでロジカルな切り返しです。でも、さらにいい答え方があります。見てみましょう。

【答え方2】
あなたはなぜ私が「妻を殴っていた」と思ったのですか?

こちらは、隠された前提(妻を殴っていた)の根拠を相手に問う切り返し方です。

答え方(1)と(2)は何がちがうのでしょう。

ここでは反論として「私はもともと妻を殴ってなどいない」ことを言いたいわけですが、答え方(1)は自分でそのことを立証する必要があるのに対して、答え方(2)は「殴っていた」ことを相手が立証しなければなりません。このような場合は、相手に立証責任を負わせる方が、議論を有利に進められます。

ほかの例もみてみましょう。

【質問】あなたはもう万引きはやめましたか?

↓(隠れた前提:かつて万引きをしていた)

【反論】なぜ、あなたは私が万引きしていたと思ったのですか?


【質問】あんなバカな男とつき合っていたことを十分反省したか?

↓(隠れた前提:彼はバカだ)

【反論】なぜ、あの人のことを「バカな奴」だと思ったのですか?


【質問】君は戦争推進政党を支持するのか?

↓(隠れた前提:その法案は戦争を推進する法案だ)

【反論】なぜ、あなたはその政党を戦争推進政党だと思ったのですか?

まとめ
  1. 「あなたはもう妻を殴るのをやめましたか?」のような質問を「不当予断の問い」(複合的質問の誤謬)という。
  2. 不当予断の問いにおいては、こちらが認めていない主張が前提されている。
  3. このような質問に対しては、その前提の根拠を相手に問い返すといい。

ちなみに、この反論の仕方については『論理が伝わる「議論の技術」』(講談社ブルーバックス)の著者・倉島保美さんに教えてもらいました。倉島さん、どうもありがとうございました。